マテリアルピクター8話「水中回廊」12
あらすじ
巨大ブヨブヨモンスターを何とか回避?したリオン達。
あんなもん、相手になんてしてられない。
ここは危険を起こさず何とかやり過ごすのが一番!
そして、一つだけ分かったことがある。
自分たちがモンスターと遭うまで通っていた通路、それはループする通路だった。
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という訳で、あたし達はモンスターを回避しながらイライザとナナオがそこにいるであろうと思われる地点を目指していた。もちろん、そこにはたぶん海の精霊とその寄り代になっている水のマテリアルがあるはずだ。
でもまさかモンスターだらけのルートが一番の近道とは、なんて危険は所なんだ!この場所は!まぁ、相手にとってはそれが普通なんだけどね。
マッピングと先生の交換通信で得た情報を元に、あたし達は何とか目的の場所まで移動している事がわかる。という事は、今まで通っていたあの通路はというと…?
「あれはループ用の通路ですね」
と、フロン先生が言う。
今あたし達は、先生と通信中だ。
『スープ?』
『違う、ループだよループ!迷宮用トラップの一種だよ』
あたしの間違いにすぐに突っ込みを入れるクオン。
最近なんだかこのやり取りが増えているような気がするのは気のせい?
『ダンジョンなどではよくある魔道式トラップさ。一旦中に踏み込むと同じ場所をぐるぐると周って一生抜け出せなくなるって言う罠だな。』
『ええっ!?そ、それじゃ、あのままあそこに居たらず~と同じ通路を歩き回る羽目になっていたって事!?』
『まぁ、そう言う事だね』
が~~~ん!!
そ、そうか………。
もし連絡が取れなかったらあたし達永遠にあそこに閉じ込められていたのかもしれないのだ。なんか急に怖くなった………。
『ビビッたのか?顔が青いぜ?』
『う、うるさい!』
クオンが横目であたしを顔色を見てそんな事を言う。
「今君達は、5つ目のフロアに居るんだね?」
『はい。なんとかモンスターをやり過ごしながら移動していますが、だんだんフロアが少しずつ狭くなっているような気がするんです』
兄はそう先生に報告した。それはあたし達も実感している。移動して違う広間に行くたびに思っていたのだが、少しずつ広さが狭くなっているような気がしたのだ。
「もしかしたら、マテリアルの近くにまで来ているのかもしれないね」
『ホントですか!?』
「まだ、可能性というだけの話だから油断してはいけないよ」
『はい、分かってます。』
「それと、皆に伝えたい事があるんだ」
『ん?なんですか?』兄が聞き返す。
「実は、その空間内の時間は凄くゆっくり進んでいるみたいなんだよ」
はぁ、時間がゆっくりね…。
それが何か?
「つまり、君達との時間差と捕らわれた2人の時間差が違うから気をつけてね。それも一種のトラップだから注意して行動してね。ちなみに君たちは4,5時間程度しか活動していないと思うけど、こっちは丸一日過ぎているからね。それじゃ気をつけてね!」
そう言って先生からの通信は終わった。
『………』
『ちょっと待って!それって凄いまずいじゃん!!』
先生の話を聞いて、あたしが頭を抱える。
『何で肝心な事いつも言わないのかな………?この先生は…』
クオンも先生のメッセージを聞いて半ば呆れている。
あたし達が悠長に探索なんかやっているうちに丸一日過ぎてしまったという事なのか!?
『まぁ、妖精界では普通の事だから気にもとめなかったけど。やっぱ、まずいよな?』
などとクオンが言う。て、妖精界ではそれが普通なのか!?
待てよ?妖精と精霊はとても近い存在だと聞いた事がある。つまり基本的な感覚もよく似ているわけで、この結界もそれを意識して造られているわけだ。と言う事は、つまり………、
『ちょ、ちょっと待って。この結界って、妖精界とか精霊界とかを意識して作られているわけ?』
『まぁ、そうかもしれないな。故郷を思い浮かべて作っているのかもしれないな。最初にこの結界内で出会った巨大ナメクジも、もしかしたらウミウシをイメージして作ったのかもしれないな。魔力が足りなくて変な生き物になっているみたいだけど』
あたしの疑問にクオンが答えてくれた。
ここは海の精霊が造った結界であり小さな世界だ。
世界にはいろいろ有るけど、この世界は妖精界や精霊界を基準にして出来ているようだ。妖精界や精霊界は、他の世界と違ってゆっくりと時間が過ぎていくと聞いた事がある。濃度の濃いエネルギーによって時の流れがゆっくりと進んでいるのだとか、そのせいなのかそこに住んでいる住人は皆長命だ。そして時間感覚もかなりずれていると言われている。あたし達の一年が向こうでは何十年何百年という感覚で過ぎていく。
もちろん、あたしの住んでいる魔界と人間達が住んでいる物質界ですら時間の感覚が違うのだけど、妖精界や精霊界はさらに大きくずれるらしい。もし人間が妖精界に行って、帰ってこようと思ったら何百年も掛かってしまう。わずか1日の滞在で、事実上帰って来れないに等しいくらい危険でもあったのだ。魔界との間ですら数週間の時差が起ると言われていた。今は妖精界も精霊界もないので、検証の仕様がないのだが…。
あたし達は今、そんな空間の中にいるのだ。
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