マテリアルピクター8話「水中回廊」7
あらすじ
兄のアルデルが持っていた小型手帳パソコンで外部と通信ができるようになったリオン達。
早速現在の状況を講師のフロンに報告するのだった。
7
「状況は分かった。とりあえず、その第2の結界のマップ現在まで調べて物をこちらにも転送してもらえないだろうか?私も調べてみよう」
『ありがとうございます!』
やっと先生が本題に入ってくれたのか、兄のアルデルが少しほっとしてお礼を述べた。
「それと残念な事に後3日はそちらに救出の手伝いが出来ない」
『え!?どういう事ですか??』
先生たちは後からくるって言ってたのに、急に来れないってどういう事?
皆も不安な顔をして先生の話を待った。
「何故かよく分からないのだか、マテリアル採取条件と育成についての法律が変わってしまったんだ」
『変わってしまったって………?』
何かあったんだろうか?先生は一息ついてから、あたし達に今回の状況が凄く悪い事を話し始めた。
「一ヶ月前に条例が変更されて、
《マテリアルセンター内の研修および訓練所の利用は原則としてマテリアルピクターかその研修生、講師のみ利用でそれ以外のものは出入り禁止とする。施設内での緊急事態について1週間以上異常が続いたもしくは人的被害が続いた場合、職員および関係者による探索救出を許可する》
と言う物だ」
と、先生が新しい条例の説明をしてくれたのだった。
『!?』
ちょ、ちょっと待って!?それってどういう事!??
『先生!それってどういう事ですか!?そんな、変な条例聞いたことないです!!』
あたしは先生に食って掛かった。だって今とても大変な目に合っているのに、《手出し無用》なるよく分からない条例が出来ているなんて聞いたことがない!!
『なんか、陰謀くせ………』
腕を組んで聞いていたクオンがぼっそりとつぶやいた。
『陰謀?』
あたしがクオンに聞き返す。陰謀って…、どういう事?
『大方どっかの階層の偉い連中が、マテリアルの独占を狙って作った条例なんだろう?しかもたぶん、複数のやつらが同意して案を通したに違いない。まぁ、たぶん半年ほど前に行なった魔界評議委員会議の時に決まったんだろうな。
あの会議は魔界の秩序についての法律とかを決める所だからな。でも新しい法律なんてここ数百年なかったのに、よくこの法案が通ったよな?自分達だって首を絞めるようなものなのに…』
ぽか~ん………。
『ず、随分と詳しいのね…?』
『ん?そんなの毎日新聞やら情報誌やら見ていれば分かる事だろう?もう、大人なんだからさ。それにマテリアルピクターになるんだからそれくらい知っておかないとまずいだろう?』
『うぐっ!』
『もしかして、見てないのか?』
クオンはニヤつきながらあたしを見てからかう。
「君は相変わらず詳しいね………」
『そうですか?』
フロン先生は苦笑いしながら話を続けた。
「確かに、これは変な条例だ。でもマテリアルセンターの実質的な運営は魔界のトップが指揮している。今の我々にはどうする事もできない。それに講師だけでは救出に行くというわけにも行かないしね。私も講師とは言うけど、本当の職業がマテリアル研究所の職員で条例に引っかかってしまう。ほとんどの講師も本業があるので、条例に引っかかってしまうんだ」
そうだった、フロン先生は元々というか今もマテリアル研究所に勤めているんだっけ。
確かジャンカン先生も本来は将校学校の先生なんだけ、ほとんどの講師陣は何かしらの本業をやっていてる。
つまりマテリアルピクターの講師と言うのは国から指定された臨時講師と言うのがほとんどなのだ。
それじゃ、本当の講師は?というと、正真正銘の本職のマテリアルピクターが講師をしないといけないのだけど、ほとんどのマテリアルピクターは外出していていない。皆さまざまな物質界へ赴きマテリアルを採取しているのだ。
もし現時点でいたとしても、怪我や事故などで一時期休息を取っているマテリアルピクターしか存在しない事になる。そんな怪我人に、救出をお願いするなんて出来るわけがない。
文字通りかなり不利な条例だ!
『なんなの!?それ?何が目的なの!!?』
あたしが憤ると、クオンが腕組しながら自分の考えを述べた。
『たぶん、マテリアルピクター候補生の数減らしかなんかだろう?当面の目的は…、今の状況はどうだか知らないけど』
『数減らし?』
『マテリアルピクターがいなければ、マテリアルを手に入れる事は出来ない。マテリアルはマテリアルピクターしか採る事を許されていないからだ。マテリアルが手に入らなければその階層のエネルギーが不足している。つまり、その階層の生産性が減り階層の力関係が崩れると言う事になる。
魔界は1枚岩じゃないんだぜ?7つの階層と言う7つの世界で構成されている世界だ。現在トップの階層は経済も生産もトップの所の王族が魔界をリード指揮をしている。魔界は精霊界の崩壊後エネルギーの循環による被害で、中々自然エネルギーが集まらなくなってきているし、物質界からの逆流の被害にも遭う。その上魔物も増えやすくなり治安も悪くなる。それをマテリアルピクターのエネルギー循環おかげで支えられているんだ。でもそれぞれ7つの世界に分かれているから、マテリアルピクターの能力や数など階層事に違うし、集まるマテリアルのエネルギーも差が出てくるわけだ。
マテリアルピクターの数が多ければその階層は栄える、逆に数が減ればその階層は危険になる。つまりこの条例は政治的な意味合いを持っているという事でもあるし、俺たちの住んでいるこの階層の危険度を上げてしまうと言うとんでもない条例って事なのさ。今は影響はないと思うけど、そのうち徐々に危険度が上がってくるだろうと思うよ』
クオンは、今の魔界の状況を自分なりに分析したのだった。
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