マテリアルピクター7話「妖精と精霊」12

あらすじ
水のマテリアルの捕まったイライザ達を助けるために、水の森を歩くリオン達。だけど目的地に着くには時間がかかりそうだ。
そんなリオン達とは別にセンターの方では講師が集まって臨時会議が行われていた。
まぁ大した話はしていないと思うけど?

12
お昼近くに差し掛かってくると、さすがに疲れも溜まってくる。
「歩き疲れた~、どっかで休もうよ……」
後ろを歩いていたクラウンがそうつぶやいた。
「そうね、どこかで休憩しましょうか。」
ユーディリーはみんなの様子を見ながらそう言った。
あたしもかなり疲れている。
数時間も歩きっぱなしはやはりきつい。それに周りの風景もちっともかわらなし……。あたしは近くにあった岩の上に腰を掛けて「ふ~」とため息をついた。そしてただ1人、平然と突っ立っている人物が声を掛けてくる。
「リオン、大丈夫?」
兄のアルデルだ。
「兄貴は疲れてないの?」
「う~ん……、全然……」
言っちゃ悪いが、見た目女の子みたいにひょろっとしているのにこのタフさ!頑丈そうなフィフロスでさえ息を切らしているのに、やはり覚醒している者との違いなんだろうか。ちょっと悔しい。
「お前凄いな……、案外体力あるんだな……。」
「ホント、ホント……」
クオンとフィフロスが疲れきった顔で兄貴を見ている。
「やっぱり種族の差なのかな……?」
「そうかも……」
「?」
種族の差ってどういう事?彼らが何を言っているのかはよく分からないけど、兄貴だけはどうやら特別らしいと言うのだけは分かった。
それでも種族の差というだけで、こんな風に言われる事もないと思うんだけど……。とはいえ、確か種族の特徴でいろいろメリットがあったりデメリットがあったするのは事実なのだか……。
あたしは休憩しながらあたりを見回してみた。そう変わらず結界の上空からは水面の光がもれている。まるで湖の中に沈んだ森の中をさまよっているような感じだ。まぁ中の物の大半は海関係の物であふれかえっているのだけど。あたしの目の前においしそうな魚が横切っている。
「は~、この魚が幻とはね……。この魚だけでも獲れれば食料はいつでも確保できるのに……」
なんだか見ているだけでお腹が減ってきた。
「無理に決まっているだろう?所詮幻なんだから……」
クオンも同じ事考えていたらしく、目の前の魚を物欲しそうに見ている。
「お刺身や焼き魚が食べたいです……」
クラウンも森の中を漂う魚を見てため息をついた。みんな同じ事考えている?
疲れた上に、お腹まで減ってきたあたし達。
だら~と、くつろいでいるのだった。
あたし達が休憩をとってくつろいでいる頃、マテリアルセンターでは新たな会議が開かれていた。
「今、専門知識のある研修生を派遣しています。彼らなら大丈夫でしょう」
「しかしもし何かあったらどうするのかね?」
会議は朝から行われていた。集まった職員が今回の出来事に対して口々に不安を言い始める。
「その場合は正規のマテリアルピクターに頼むしかありません。今の我々には打つ手がありませんので……」
一人の職員が否定した。リオン達のクラスを担当しているフロンだ。本業はマテリアル研究者だ。
「確かに今の我々には何も出来ない。だがそんなに状況は悪いのかね?マテリアルピクターのほとんどは皆、物質界へ行っていていないんだぞ?待機中の者だって、怪我などで入院している者や休暇中でこの階層にいない者がほとんどなんだ。それを当てにしていると言う事なのかね?」
「いえ、そんな事はありません。ただこれも研修の一環だと思ってやっています」
「研修の一環だと?どういう事なのか説明してもらえないだろうか、フロン先生」
話を黙って聞いていた、リオンたちが所属しているマテリアルセンター第7支部長のオデリックがフロンに説明を求めた。
「今回のは、今までこの訓練所では起きた事がない事例です。まさかこのセンター内の擬似空間でマテリアルが成長し、しかも意志を持っているなんて初めての事です。ですが、これも物質世界ではよくある事です。これを解決できるには、今一番マテリアルピクターとして素質のある者を成長させるための格好の訓練になると思っているのです。
それにもしマテリアルを持ち帰ることが出来たとしたら、これもまた初めて魔界で意志の持ったマテリアルを発見した功績にもなります。ですからもうしばらく待ってもらいたいのです。みなさん、よろしくお願いします」
そう言って、フロンは会議室にいる職員に頭を下げた。フロンは二人が行方不明になったとは言ったが、マテリアルに2人が取り込められているとは言わなかった。
問題を大きくすることは避けたかった。
「それで、マテリアルを回収しに行った研修生はどんな研修生なのかね?」
厳つそうな職員が、フロンに尋ねる。
「妖精族4人と竜族2人です」
「!!」
「――そうか、それなら大丈夫だろう」
他の職員も何故か研修生のメンバーに納得したのだった。
安心したのか誰も意見は言わなかった。その表情はなぜか安堵と言うよりも、浮かない顔といったほうが正しかった。
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