6話「実施訓練(後編)」
あらすじ
『ホーリークリスタル』の中から助けを求める声を聞いたリオン。
いても立ってもいられず兄のアルデルを残して、声のする方へと飛び出して行ってしまった。
一体誰が助けを求めているのか、どこの誰かもわからずに。
探しては見るのだが、なかなか見つからないのでした。
8
町を抜けると草原が広がっていた、その先には広大な森が見えてくる。声が聞こえた方角は森のほうから聞こえたような気がした。
あたしの担当エリアは街中だけど、さすがにあの声を聞いてしまったからには放っておけない。
マテリアルピクターは指定地域エリア以外での活動は基本的に禁止されている。これは他のマテリアルピクターの妨害防止であり、規定以上のマテリアルの採取が出来ないようにする処置でもある。ある程度のマテリアルはその地にそこしておかないと逆に自然バランスが壊れる場合があるからだ。でも今は訓練だからそんなことは気にしする必要はない。
森の中をいくと川が見えてきた。川の幅は4メートルから5メートルくらい、あたしは川に沿って進んでいく。
何故川に沿って行ったのかと言うと、呼びかけられた声はなんだかくぐもった感じで、まるで水中の中でしゃべっている様なそんな声が聞こえたのだ。
しかも苦しそうなそんな感じだった。
広大に森に幾つかの川が流れているのがわかった。もしかしたら声の主は、その川のあたりにいるのかもしれない。
そう思って川に沿って進んでいくと、その先に小さな滝が姿を現した。
あたしは滝の近くに寄って辺りを見回した。
なんだかここが怪しい……と、思う。たぶん……。
「あたしを呼んだでしょう!?誰かいないのーー!?」
あたしは滝の周りに向かって呼びかけてみた。
反応がない。違ったのかな……?
あたしはまた別の川を探しはじめた。水辺であることは間違いとあたしは確信しているのだが、肝心の場所が見つからない。
あたりはもう夕暮れだ。もうすぐ実践訓練も終わってしまう。もし誰かが助けを求めているのならすぐにでも助けないといけない。訓練が終わったらここは閉鎖され、明日まで誰もここに入れなくなってしまう。
どうすればいいやら……。飛び出したのはいいが、あたしはどこを探せばいいのか完全に迷ってしまっていたのだった。
「リオン!!」
「あっ、兄貴!」
あたしが慌てて飛び出していった後ついて来たのだろう、あたしはすっかり兄貴の事を忘れていた。
兄貴は急いできたのだろう、ゼィゼィと言って息を荒くしている。
「――本当に、……勝手に行動しちゃダメだろう!?」
「ごめん……」
「ところで声の主は見つかった?」
「う~ん、まだ見つかっていない」
飛び出していった割には、全然見つけられず落ち込むあたし。
「そうか……、もうすぐ訓練も終わるしこの事は先生に頼んだほうがいいのかもしれない」
兄が先生に相談しようと提案する。
「そ、それはダメよ!!あの声はあたしに助けを求めたんだから、あたしが助けるの!!」
「でも……」
「あたしの名前を呼んだって事は、あたしの事を知っている誰かよ。きっと何かあったんだ」
あたしは最後まで自分で探すと兄に進言した。
あの声を聞いたのはあたしだけなのだ。
誰かが助けを求めているのに、何もしないで帰るなんて出来ない!
「声の主が誰だか分からないの?」と、兄が訊いてきた。
「なんかね、くぐもった感じの声だったからもしかしたら水の中かなと思って……」
あたしは頭の中で聞いた声の特徴を兄に話してみた。
「すると、声の主は水の中にいると思ったんだね?」
「うん、それとね。ここから聞こえるような気がしたんだけど……」
「したんだけど?」
「なんか、さっきまで聞こえていた声が聞こえなくなったの……」
あたしは少し不安になった。
どうにも自信がない。
もしかしたら、この場所ではないのかもしれない。
場所をもし間違えていたとしたら……、もうダメなのかも!?そんな思いがよぎった。
どこの誰かも分からないのに、その知らない声に助けを求められたあたしは何とかしたいと思っていた。
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